市民と議員の条例づくり交流会議

第4分科会「コミュニティ活動と議会」

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報告「『えさし地産地消推進条例』制定に取り組んで」

佐藤邦夫(奥州市議会議員)
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■議員提案に取り組んだ理由

 奥州市は、江刺市や水沢市などが合併して出来た人口約13万人の市。盛岡市でも人口30万人で、岩手では二番目に大きなまちだが、神奈川などの都会とはちょっと違った環境にある。旧江刺市は、人口が3万3千人で、世帯は1万戸、このうち6千戸が農業を営んでおり、米(特Aランクの特別栽培米)やりんご(ジョナゴールド、ふじ)などブランドのある農産物を作っている地域。そういった環境の中で、同級生や友人から江刺の農業のブランドを守ってほしいという声や、しっかりとした食育、農業の楽しさや大切さを伝えたい、農民が尊敬されるようにしたい、そしてそれが自給率の向上につながる、後継者にもなるという思いから条例を考えていた。

 この条例の制定に取り組んだもうひとつの理由は、早稲田の大学院に通っていたと いうこともある。入学時の論文のテーマは「農業と都市との交流」。北川先生の指導 にも感化を受け、また法律に強い人のサポートもあった。これも条例制定の大きな原動力となった。


■議員提案から制定まで

 当時旧江刺市の議会の状況は、22人の議員のうち、公明が1人、小沢系20人で、私は唯一単純無所属として浮いていた。そういった中で、「農業を何とかしたい」ということからはじめた。まずは「えさし地産地消推進議員連盟」への入会の誘いからはじめ、賛同者を募った。議員提案条例は全員一致でなくともいいと思っていたが、議長・副議長を除いて20人が賛同し、推進議員連盟に入ってくれた。私は、無所属の議員だったのだが、地産地消、農業の活性化ということが、議員全体の意識の下にあったのかもしれない。主義主張は違っても、地域の共通の課題であれば、最終的には全会一致で出来るのだと思った。

 条例制定に当たって一番心がけたのは、市民との協働ということ。議員提案条例だから議員が賛成すれば条例は出来る。しかしそれでは意味がなく、つくるからには地域のためにならなければならない。議員が個々に支持者の集まりや地域で懇談会を重ね、参加している皆さんに意見をもらい、議員がそれぞれメモ書きし、そういった市民からの意見を元にまとめていった。それによって、生涯学習としての食育や地産地消という観点から、学校給食にどの程度地元の農産物をつかっているのかを明らかにするという課題へとつなげることができた。概念的なことで話題になることもあったが、目的をはっきりさせるために学校給食における地元の産物の割合を公表するといったことも盛り込んだ。

 また、生産者と消費者が継続してお互いの立場を理解する場がほしいという声もあり、江刺地産地消推進会議の設置も条例に盛り込んだ。これは有効で、合併までの5ヶ月の間にこの会議を2回開いている。ここでの議論の内容は、地産地消推進のための行政執行に生かされた。行政主導でつくった条例は100%執行部側の意見のみが通る。これまでも市民の意見を聞くことはやっていたが、それはほとんどセレモニー的になっていたので、こういったことも議員提案条例の効果ではないか。


■議員提案の意義と議会の役割

 議員提案で条例を制定すると議会そのものが変わってくる。もちろん自分自身も変わった。概念的には分かっていたが、条例が制定されれば、執行側はそれに従わなければならない。行政側も協力的になり、予算がつくことになる。逆に、予算がつかなければ、条例に従ってなぜやらないのか、市民の声があるのになぜやらないのか、と議会で追及することができる。現在、合併した奥州市で問題になっているのは、私立病院が大赤字であること。地域医療をどうするかというPJをつくろうと話をしている。こういった地域の課題について、市民の代表である議員が取り組まないのであれば、議員は要らない。機関委任事務の廃止で議会の役割・責任はますます重くなる。条例提案をしたことでそのことを実感している。もっともっと議会で様々な課題について取り組んでいかなければならない。今度の奥州市の選挙ではマニフェスト研究会を立ち上げ、市民にも入ってもらい、市民と議会が議論しながら、マニフェストをつくった。奥州市の議長も所信表明をして選挙をした。こういったことも議員提案条例による議会の目覚め、活性化の効果だと思う。


■執行側条例との違い

 行政側がつくる条例は、部課のみの条例提案がほとんどだが、議員提案はいろいろな課や、縄張りを越えたものがつくれる。条例が制定されれば、議会と首長が対立していない限り、執行するための予算がついてくる。市民も自分の考えが条例になり、執行されるということで実感することがでる。これは議員だけでつくらない、市民の意見を広く捉えながらつくっていくことが前提になるが、まずは簡単なものでもよいのでつくってみる。そうすることでこれまでとは違った方向が見えてくるのではないか。


■最後に

 皆さんはなぜ議員になったのでしょうか。おそらく世の中をよくしたい、地域のために役に立ちたい、あるいは制度を変えたいという思いが動機だと思う。その思いをどう現実化させるのか。ひとつは一般質問など行政側に提案することがある。あるいは、市長をヨイショし、すり合わせ、お願いをするといった方法もある。しかし、やはり議会にしかできない方法、条例をつくって実現する、議員になった思いを達成する。この手法を使わない手はないと考えている。是非そういった思いで、地域のこと、子どもたちのこと、ひいては日本の将来をよくしていってほしい。それが政治の役割だと思っている。


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■坪郷(コーディネーター)
 無所属の議員が全員一致できる条例を制定されたことに驚いたが、地域にとって迫られた、切実な課題であったということだと思う。さらには市民との対話・協働ということで、条例について市民が考える機会をつくり、また市民からの提案を議会が吸収する、議会と市民のコミュニケーションも図られたことも特徴だ。条例提案によって、議会をはじめ、行政や市民の意識も少しずつ変わっていったということが印象的だった。

会場参加者
 市民や団体に条例制定や効果を理解してもらうためにどのようなことをされたか。また、議員間の意識の問題、パワーゲームという点では議員の声はどう反映されたのか。

佐藤(邦)
 議員間での討論や意見交換はかなり行なった。はじめに各議員の個々の思いをペーパーに書いてもらい、一つひとつ拾い上げ、まとめていった。議員間の意識、認識も当然違う。私もそうだが、最初はそもそも条例がどういうものかわからない。条例を可決させるということはどういうことか。条例でなく宣言でもいいのでないか、という声もあった。条例は、行政に網掛けし、強制するものだと説いて回った。話をして賛成しても、次の日には反対ということもあった。
 また、生産者からは、確かにブランド物などは地元でなくても売れればいい、というものもあった。しかし、地元で消費し、それが外に伝わることによって、より一層買ってもらえることになるのではないか、といったことや、地元の学校の校長からの「この条例を活用することで地元に誇りを持ち、農業を大切にし、後継者も出てくるのではないか、地元に残るのではないか」といったコメントも農家の人々に伝えてまわった。

会場参加者
 人口3万人で、これだけ多くの市民の意見を集めるために、どのような働きかけをしたのか。

佐藤(邦)
 パブコメには2件しか集まらなかった。意見を集めるためには工夫した。筑紫哲也さんの講演会に700人が参加し、このときにアンケートをした。また、議員が個々に自分の地域でアンケートを行い、それを回収して回った。産地直売所や県とも連携し、講習会や勉強会のときにもアンケートをとった。また、議員22人それぞれが地盤とする地区、自分の地盤としている地区の学校に出向き、食育もした。最低限、生産者や調理をしている人に感謝をする、ということを必ず入れるとしたが、内容は個々に任せた。中学校で時間をもらったり、給食の時間に一緒に食べ、残った時間を食育に当てたりした。また、増田知事にも応援してもらったり、学校やPTAとの意見交換も行い、その中でも意見をもらっていったということがある。

会場参加者
 奥州市は新設合併ということで、旧条例は失効した。今後の展開はどう考えているか。

佐藤(邦)
 2年以内に再提案しようと考えている。江刺以外に4つの地区が残っており、4つの地域の関係者、農協や生産者、商工団体や学校などの関係者との意見交換をしなければならない。現在は、市の農林課と話をし、条例制定に当たって話をすべきところをピックアップしているところ。合併したとしても農業が中心の地域。さらには、この条例を提案しないと私は落選してしまう。

※会場参加者の発言などの文責:市民と議員の条例づくり交流会議実行委員会(事務局)

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