憲法を考えるための用語集

ここでは、憲法にまつわる用語を、現在の一般的な通説で解説しております。
1 憲 法 一般的に憲法とは、国家の基本原則や基本組織を定めた根本法のことを指す。このような意味における憲法は「固有の意味の憲法」と呼ばれ、いつの時代のどのような国家においても存在する。他方、「固有の意味の憲法」の中でも、自由主義と立憲主義に基づいて定められた憲法を、特に「立憲的意味の憲法」または「近代憲法」と呼び、憲法学は主としてこの意味における憲法を考察の対象とする。「立憲的意味の憲法」は、人権の保障、法の下の平等、国民主権、法の支配、権力分立などを基本原理としており、日本国憲法を含め、およそ民主主義国の憲法はすべてこの「立憲的意味の憲法」でなければならない。
2 国 家 国家とは、「領土」「国民」「主権」という三つの要素(国家の三要素)を兼ね備えた政治的実体のことを指す。「領土」とはその国家の支配が及ぶ地理的範囲を意味し、「国民」とはその国の国籍をもつ人民のことである。また「主権」とは、その国家が対内的に最高の支配権を有しており、対外的に独立であることを意味する。国家の起源は古代にまで遡ることができるが、古代から中世までの国家は、一部の特権階級によって支配され、領土もさほど明確ではなく、そこに住む人々も「国民」としての一体的なアイデンティティを共有しているわけではなかった。しかし、近代に入ると、市民革命を経て国民が国家の主人となり、明確な国境線や主権も確立され、今日的な意味における国家が誕生した。このような国家を特に「国民国家」ないし「近代国家」という。
3 自由主義 個人の人格や尊厳を重んじ、個人の自由な思想や活動を可能な限り保障しようという思想であり、憲法の基本理念の一つである。憲法は国家やその他の集団に先立って、まず個人を尊重するという個人主義原理に基づいているため、個人の自由を最大限尊重するという自由主義につながるのである。
4 立憲主義 個人の権利や自由を保障するためには、権力者による権力濫用を防止しなければならない。そのために、憲法を国家の最高法規として制定し、その枠内でのみ国家権力の行使を認めようという思想を立憲主義という。立憲主義は近代憲法の基本原則の一つであり、そのため近代憲法は「立憲的意味の憲法」と呼ばれるのである。
5 国民主権 国政のあり方を最終的に決定する権力または権威が国民にあるという原理であり、君主主権や天皇主権に対置するものである。国民主権の中には、国民自身が政治権力を行使すべきであるという意味合いと、政治権力の正当性の淵源が国民にあるべきであるという意味合いが含まれている。これら二つの意味合いのうち、前者を強調すれば、国民主権原理は直接民主主義的な制度を要請することになり、一方、後者を強調すれば、国民主権原理は間接民主制(議会制民主主義)と結びつくことになる。
6 法の支配 何人も「法」以外のものには支配されないという原理で、「人の支配」に対置する概念。ただし、ここでいう「法」とは、その内容や手続が正当なものでなければならず、内容や手続が不当な法は、法の支配でいうところの「法」には当たらない。したがって、不当な「悪法」によって人を支配することはできず、国民は「悪法」に従う義務はない。
7 人 権 国家によって与えられるまでもなく、人間が人間として当然に持っていると考えられる基本的な権利であり、基本的人権とも呼ばれる。人権はその内容によって、自由権、参政権、社会権、受益権(国務請求権)に分類される。人権概念は、市民革命など社会の変革を目指す運動を通して、発生し拡大していったものであり、各国の憲法はそうした社会変革の成果として、人権を書き加えていったのである。日本国憲法においても、人権は「自由獲得の努力の成果」であると規定されている(97条)。
8 自由権 国家が個人の領域に介入することを排除して、個人の自由な意思決定と活動を保障するための権利。表現の自由、思想・良心の自由、信教の自由などがその例である。
9 参政権 国民が国政に参加する権利。選挙権、被選挙権、公務就任権、公務員罷免権などからなる。
10 社会権 人間らしい生活を維持するために、生活水準・教育・労働などの分野において一定の条件整備を行うことを国家に対して要求する権利。社会権は、資本主義の高度化によって生じた失業・貧困などの弊害から、社会的・経済的弱者を守るために、20世紀になってから保障されるようになった人権である。生存権、労働基本権などがこれに含まれる。
11 受益権(国務請求権) 人権の確保をより確実なものとするために、国家に対して一定の請求を行う権利。裁判を受ける権利、国家賠償請求権などがこれに当たる。
12 新しい人権 戦後の社会変動や経済発展、あるいは科学技術の進歩にともなって、新たに必要とされるようになった人権の総称。プライバシー権、環境権、自己決定権などがその代表例。日本国憲法上、これらの権利を直接的に保障した規定は存在しないが、個人の尊重と幸福追求権を定めた13条から、新しい人権が導き出せると解されている。
13 プライバシー権 個人の私生活や私的情報を守るための権利であり、かつては「一人で放っておいてもらう権利」と定義されていたが、情報化社会の発展に伴い、現在では「自己に関する情報をコントロールする権利」と定義されている。
14 環境権 人間の生活にふさわしい良好な環境(特に自然環境)を享受し支配する権利。
15 自己決定権 個人の人格的な生存に不可欠な一定の個人的事柄について、公権力や他者から干渉されることなく、自ら決定することができる権利。患者が治療方法を決定する権利などがこれに当たる。
16 法の下の平等 法的な権利・義務の面では、条件が同じである限り、等しい取り扱いをしなければならないという原則。日本国憲法では、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、・・・差別されない」と定め、法の下の平等の基本原則を宣言している。
17 外国人の人権 人権は、本来いかなる人にも認められるべきものであるが、憲法は多くの条文で人権の主体を「国民」と規定している。そこで外国人には憲法上の人権が保障されないのかが問題となるが、現在では、その人権の性質上日本国民に限定すべきものでない限り、外国人にも人権の保障は及ぶとされている。例えば、職業選択の自由や勤労権などの保障は原則として日本国民のみに限られるが、思想・良心の自由や信教の自由などは外国人にも広く認められる。
18 公共の福祉 人権の制約原理として憲法13条などに定められている概念。「公共の福祉」が何を意味するかに関しては、見解が分かれているが、憲法学説の多数は、これを「人権相互の矛盾・衝突を調整するための原理」と捉えている。すなわち、「公共の福祉」によって人権を制限することが認められるのは、人権と人権の衝突を調整する場合のみであり、単なる「公益」や「公共の安全・秩序」といった抽象的な利益のために人権を制限することはできないとされる。(ただし、財産権などの経済的自由権については、経済の調和的発展といった政策的配慮に基づいて、制約を課すことができるとされる。)
19 権力分立 国家権力が単一の国家機関に集中すると、権力が濫用され、国民の権利・自由が侵害されるおそれがあるので、国家の作用を立法・行政・司法に区別し、それぞれを異なる機関に担当させて、相互に抑制させ権力の均衡を保たせるという制度。また、立法・行政・司法の間の権力均衡だけではなく、中央政府と地方政府(地方自治体)の間の権力均衡も権力分立の一種であると考えられている。
20 地方自治 地方の政治については、国の関与を排除して地方自治体に任せ、住民の意思に基づいて地域の運営を行うこと。「地方自治は民主主義の小学校である」という言葉にも示されているように、住民にとって地方自治は最も身近な政治参加の場所であり、民主主義社会への入り口である。しかし、日本では長い間、中央集権的な政治が行われ、地方自治は必ずしも尊重されてこなかった。近年、そのような政治のあり方に対する反省から地方分権論議が活発になされいる。
21 連邦制と道州制 連邦制と道州制は、いずれも国家をいくつかの州に分割するという地方制度のことであるが、その内容は大きく異なる。アメリカやカナダ、ドイツに代表される連邦制国家では、歴史的に州が国家に先立って存在しており、州が統治権の一部を中央政府に委ねることによって国家が形成された。従って、これらの国では、現在でも各州が自前の政府と議会、場合によっては裁判所を擁し、中央政府といえども介入できない独自の権限を有している。これに対し道州制とは、都道府県の上に、あるいは都道府県に代わって、道または州という広域の地方行政区域をつくろうという考え方である。日本でこれらの制度を採用する場合、道州制は法律によって実施できるが、連邦制の導入には憲法の改正が必要である。
22 首相公選制 首相の指名を国会の議決に委ねるのではなく、国民の直接投票によって首相を選ぶという制度。かつてイスラエルで採用されたことがあるが、日本でこれを導入するには憲法改正が必要となる。小泉首相は首相公選制の導入に積極的であったが、首相公選制は議会と行政府との対立を招き政治を混乱させるとの批判が強く、政界でも学界でも消極論が大勢を占めている。
23 司法権の独立 裁判所ないし裁判官による司法権の行使が、他の権力、とくに政治権力による干渉を受けずに独立して行われること。
24 陪審制と参審制 陪審制と参審制は、いずれも一般市民の司法参加に関する制度であるが、陪審制では、市民の中から選ばれた陪審員が、職業裁判官とは別の審理機関(=陪審員団)を構成して審理に参加し、法廷に提示された証拠に基いて、裁判官の関与なしに単独で事実認定を担当する。一方、参審制では、市民の中から選任された参審員が、職業裁判官とともに合議体を構成して審理を行う。陪審制はイギリスやアメリカで採用されており、参審制はドイツなどヨーロッパ大陸諸国において採用されている。日本で導入が予定されている「裁判員制」は、市民が裁判官と合同で審理を行うという点において、参審制に近い。
25 違憲審査権 一切の法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限。違憲立法審査権、違憲法令審査権とも呼ばれる。
26 戦争の放棄と自衛隊 憲法9条は、過去の戦争に対する深い反省の上に立って、戦争や武力の行使を永久に放棄することを宣言し、それを徹底するために戦力の不保持と国の交戦権の否認を定めている。戦争の放棄をめぐっては、自衛隊が憲法の禁止する「戦力」にあたり違憲なのではないかという問題が、これまで争われてきた。学説の多くは、「戦力」とは警察力を超える実力のことであるとし、自衛隊は警察力を超えるものであるから違憲であると解している。他方、「戦力」とは自衛のために必要な最小限度の実力を超えるものであるとして、自衛隊は「戦力」に当たらず合憲であるとする見解もあり、政府もこの立場をとっている。
27 シビリアン・コントロール 文民(=シビリアン)からなる通常の政治部門と軍隊組織とを分離し、政治部門が軍に関する重要決定を行うことで、軍を文民の統制下に置き、軍の独走を抑止するという原則。
28 個別的自衛権と集団的自衛権 自衛権とは、他国から不正な武力攻撃を受けた場合に、自国を防衛するために必要な範囲内で、一定の実力を行使する権利のことをいう。自衛権は個別的自衛権と集団的自衛権に分けることができるが、前者は攻撃を受けた国自身が発動する自衛権のことであり、通常、自衛権という場合には、この個別的自衛権を指す。後者は、他国に対する武力攻撃を自国に対する攻撃と同一視して、自国が攻撃を受けていないにもかかわらず、反撃を行う権利のことである。日本は、憲法上、集団的自衛権の行使は認められないとされている。
29 オンブズマン(オンブズパーソン)制度 政府から独立した委員(=オンブズマン/オンブズパーソン)による苦情処理制度のこと。一般の市民からの苦情にもとづいて、行政に対する調査や勧告などを行う。オンブズマンは、もともとスウェーデンなどのスカンジナビア諸国で生まれた制度であるが、今日では多くの先進国でも同様の制度が採用されており、日本においても自治体レベルでは川崎市などが独自のオンブズマン制度を設けている。
30 憲法改正 憲法改正とは、憲法の内容について、憲法の定める所定の手続に従って変更を加えることをいう。憲法改正には、次の三つの形態がある。(1)部分改正 ─ 既存の憲法条文に、部分的に修正・削除・追加を行う。(2)増補改正 ─ 既存の憲法条文には手を触れずに、新しい条項を付け加える。(3)全面改正 ─ 憲法を全面的に書き改める。
31 憲法の変遷 憲法に違反するような事実が生起し、そのような事実のほうが法的効力を認められるようになったために、憲法改正手続を経ることなしに、実質的に憲法を改正したのと同じ効果が生じること。憲法の変遷は、とくに憲法9条の解釈をめぐって議論されてきた。すなわち、学説の中には、国際情勢の変化や国民意識の変化によって憲法9条の規範内容に変遷が生じ、憲法制定当初には認められてなかった自衛のための戦力の保持が、その後認められるようになったと主張する9条変遷説が存在するが、このような見解に対しては、自衛隊違憲説に立つ通説の立場から批判が加えられている。
32 憲法調査会 1999年の国会法改正に基づいて、2000年の通常国会から衆参両院に設けられた機関。憲法について総合的に調査することを目的としているが、通常の委員会とは異なり、議案提出権は持っていない。憲法調査会では、これまでに現行憲法の制定経緯や、21世紀の日本のあるべき姿などについて、参考人から意見聴取を行うなどの調査を行ってきたが、その活動は憲法についての調査というよりは、憲法改正の是非についての議論が中心となっており、とりわけ憲法9条と前文の改正が活発に論議されている。
なお、1956年に成立した憲法調査会設置法に基づいて、かつて内閣の下に憲法調査会が設けられ、1957年から1964年にかけて活動したことがある。この憲法調査会は、1964年に憲法改正賛成論と反対論を併記した報告書を内閣に提出して、その役目を終えたが、現在活動している国会の憲法調査会と当時の憲法調査会を区別するために、後者を旧憲法調査会または内閣憲法調査会と呼ぶことがある。

 

 

 
 
 
 
 
 
 
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