市民と議員の条例づくり交流会議

全体セッション「議会にしかできないこと」

市民と議員の条例づくり交流会議2006: 市民自治体への道−いま問われる 分権時代の議会の役割
二日目◎地域の課題解決、自治のルール、条例づくりと議会の役割

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問題提起「議会にしかできないこと」

廣瀬克哉(法政大学法学部教授)
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■初日の議論を振り返る

 皆さま、おはようございます。昨日(初日)の議論を、朝から夕方まで会場で聞いておりましたが、非常に本質的な問題提起から、具体的な改革の実例まで、様々な論点が出てきました。本日(二日目)、この冒頭のセッションの位置付けは、今回の会議の企画全体から考えると、初日の議論と二日目の議論をつなぐ役割ということになります。二日目は、このあと四つの分科会に分かれ、具体的な取り組みや活動事例の中からそれぞれのテーマに関連した議論をしていくということになります。


■本質的な問題提起と改革の具体例 問われる議会の存在意義

 昨日の議論では、特に問題提起という観点から言うと、非常に本質的な、自治体議会とは何か、議員とは何者なのか、といった話がありました。それと同時に、あわせて具体的な改革の事例の議論などもありました。この二つの間をどのようにつなげることができるのか、その二つの間をつなげるための「補助線」を、いくつか引いていくということが今回私に与えられた役割だと思っております。そこで、昨日の議論を聞いた後、本日朝スライドなどを調整しながら考えた、こういう補助線であれば引けるのではないか、ということを問題提起させていただきます。その際に、通奏低音と言いますか、ずっと一貫して根底にある問いということで提起させていただきたいのが、「議会にしかできないこと」ということであります。

 冒頭の今村先生のお話にもありましたが、議会が存在するということが、民主的な代表制の基本であるということ、これはつまり、公選の長というものを持たなくても民主的な自治は可能だが、議会抜きでは民主的な自治はない、ということが出発点でありました。そして、それにふさわしい議会とはなにか、その存在意義とはなにか、ということで、青山さんの整理の中では、やや刺激的な言い方をすればという前置きがありましたが、議会はいま存在意義が問われているのではないか、存在意義を果たしているのか、という問題提起もありました。

 これはつまり、議会にしかできないこと、議会でなければできないことの一つの位置づけが、議会があることによって自治体の自治、代表制というものが存在するということである、ということであるとすれば、その代表、議会という代表機関にしかできないことを果たすことが、議会に課せられた、常に問われている存在意義なのであるということだと思います。そして具体的な論点、例えば審議手法をどうすべきか、議案のあり方についてはどういった工夫が必要か、議会を通した住民参加にはどういったやり方があるのか、といった様々な課題を考えていくときには、首長でもできることと同じことをするのであれば、議会である必然性はないわけですので、首長ではできないやり方、独任制の代表ではうまく果たせない役割、こういったことを議会がやる、そしてそれができることによって議会は存在する意義がある、ということだと思います。個々の具体的な改革の提案、テーマについて考えていく際に、常にこの問題意識を持っていることが必要ではないかと考えています。

 当日資料のレジュメでは、「条例づくりと議会―合議制の代表機関にしかできないこと−」としていましたが、今、セッションのテーマである昨日の議論とのつなぎの役割をやや重く見たときに、やはりこの「議会にしかできないこと」というテーマを前面に出した方がいいと考えました。それでは、急ぎ足になりますが、昨日の議論を振り返ってみたいと思います。


■民主的代表制の自治の基本は「議会」

 まず、午前中は「小さな自治体の議会制度」というタイトルでしたが、ここで出てきた論点は、必ずしも小さな自治体に限定されたものではなかったと思います。大きな自治体も含めて、どのレベルの自治体にも当てはまる論点も出てきましたし、また具体的な取り組みにおいては、小さな自治体ならではの報告、例えば住民と議会の関係の特徴といったものもありました。ここで出てきた論点を少し駆け足で振り返ってみたいと思います。

 一番はじめに、今村先生の講演で提起されたことの中で、枠組みの話として、二元代表制を前提としないで議論しよう、ということで検討をしてきたというお話がありました。つまり一元的な代表制という選択も含めて考える。仮に一元的になるとすれば、どちらに一元かというと、「民主的自治にとって必ずしも公選の長はなくてもよい」と。町村議会の活性化のための報告書の中で実際に使われている言葉であります。逆に言えば、議会がなければ代表制の自治とは言えない、ということが出発点であったということでした。これが一番重い問いかけであったと思います。

 様々な政治制度がある中で、例えば、私たちの国の制度は、公選の長は持っていません。大統領制ではなく、国会議員の選挙しかないわけです。しかしその制度によって、私たちが民主政治を持っていない、とは誰も論じません。首相公選制の方がいいという議論はありますが、これは私見ですが、どちらかというとリーダーの選び方において、有権者との関係を、現在の政党がどうまじめに取り組んでいるのか、というところの論点の方が重く、大統領制にしなければ民主政治がなりたたないという話ではありません。

 小規模な自治体であれば、例えば英語圏の国々ではカウンシル制度という制度が昔から定着しております。いわば、議会が執行権も持つ、つまり自治体の運営委員会を選挙で選び、その人たちが、執行権も持って運営していく、という代表の持ち方もあるということを前提にした話であります。


■議会は何を議決するのか

 もう一つは、議会が何を議決するのかという議決事件の話もありました。これは制度のつくり方、特に地方自治法における議会の取り扱い方に対する根本的な異議申し立ての一つであったかと思います。これは地方自治法96条の1項に、制限列挙で議会の議決事件が定められていて、総務官僚的に言えば、しかし2項があって、条例を定めるのは議会なので、条例を定めれば、議決事件を増やしていけるのだから、なんら問題はないではないか、という解釈で今のところ通っている。

 今村先生の指摘は、そもそも国の法律で自治体議会の議決事件を、まず原則として制限列挙した上で、あとから条例によって追加できる、という構成そのものに対する問題提起であり、またその中でも、法定受託事務については、若干議決事件の拡大の仕方に箍たががはめられているという決めぶり、これに対しての問題提起でもありました。


■「討論の広場」としての議会

 そして、具体例としては、非常に良い事例の紹介がありました。条例そのものも参考になる点が多かったと思いますし、その条例をどのように位置づけ、どのように説明されたかという、(栗山町議会)議長の説明振りも非常に印象的でした。そのことを物語っているいくつかの点を挙げていきたいと思います。議会の責務についての前文に書かれた一説「議会は、そのもてる権能を十分に駆使して、自治体事務の立案、決定、執行、評価における論点・争点を広く町民に明らかにする責務を有している」。政策の立案過程からはじまり、立案、決定、その後のチェック、執行や評価の部分も含めて、そこに含まれている論点や争点を広く町民に明らかにするという責務を持っていると。廊下の方でいろいろな調整をして、なにをどう決めるのかが決定され、本会議場では結論だけがでてくる、という議会のあり方が一般的であるとすれば、(実際に)一般的である気がしますが、論点・争点を広く町民に明らかにするという責務を、果たして果たしうるのだろうかということだと思います。

 また、私たち学者の言葉の使い方について反省を迫られた文言でありますが、「自由闊達な討議を通して、これら論点、争点を発見・公開することが、討論の広場である議会の第一の使命である」という言葉も前文の中に入っています。これは「議会にしかできないこと」という、本日タイトルにした言葉を、非常にわかりやすく、本質的に敷延ふえんした言葉になっているのではないかと思います。これこそが議会にしかできないことであり、それをやることが、討論の広場としての議会の第一義な機能である、ということを栗山町の議会基本条例は、非常にわかりやすい言葉で、明確に住民に対して説明されていたと思います。

 では、具体的にはどのようにそれを実現していくのか、ということで、これは基本条例以前からなされていたことであり、形そのものは基本条例によって与えられたとしても、町民との関係、町民に対しての説明義務の果たし方の中から、基本条例を持つべきであると展開されていったことが明確に説明されていました。そして対町民関係の中の報告、その報告される議会の活動の中身、活動の仕方については、自由討議や一般会議という審議の形式、その持ち方や、そのプロセスにおける執行部からの出席は、要請した場合に出席があるという関係を位置付けた上で、要請した場合には執行部からの反問権を認めて、対話が成り立つようにしていく、ということでありました。

 全体を通して一貫していたこと、説明の姿勢から明らかに私たちに印象付けられたのは、住民への説明責任と情報公開を通して、町民と議会との関係の基本を位置づけたということであります。それを実現していくために、審議手法などについて、具体的な制度が設定されているということだと思います。

 それはつまり、一つは議会が民意を反映する、町民・住民の意思がありそれを議会がどのように反映していくのかということであり、そして、論点・争点を住民に明らかに示していくということは、先に民意があってそれを反映させていくという関係だけではなく、論点を明らかにしていくプロセスの中で、町民の意思が固まっていく、変わっていくということも含めて、民意を形成するという機能もまた、一つの重要な論点ではなかったかと思います。

 このような要素を持っている町民と議会の関係の基本を、議会基本条例の中で定めていったという実例の紹介がありました。


■自治法改正と議会機能の強化 その評価と課題

 午後の方は、まとめるのが非常に大変でした。「自治法改正の評価と今後の議会改革」というタイトルの設定がありましたが、必ずしもそのように展開されていったわけではありませんでしたが、非常に重要な論点として、一つ目は、第一次分権改革以来の流れの中で、これは法律改正によってなされた制度改正の成果という部分もありますし、それ以外に自治体議会が、自ら議決をし、条例を作ることによって、様々な自治体計画に関連して、議決事件の拡大ということが行なわれている。町村議会では概数で200ほどの議会が議決事件を拡大している。市議会ではもう少し少ない、県議会では一部にはとどまるけれども、(こうした議決事件の拡大は)行なわれている。これらは、議会が議決できる範囲の拡大、換言すれば、議会の審議から制度的に排除されていた項目が、議会の権能の中に位置付けられてきたことだ、という問題提起であったと思います。

 機関委任事務の廃止は、これまでは、機関委任事務に関して、条例制定権さえ認められていなかったものが、今は当然のこととして、法定受託事務に対する条例制定権がある、そのことを表しています。議決事件の追加の中で主に取り上げられてきた行政計画は、中央集権的な行政の執行体制の中で、国が問題提起をし、法律によって、例えば○○計画の策定を義務付けられ、行政計画であるから執行部の中で決めていく、また、法律によって、住民参加で決めなさい、ということが決められ、執行部が住民参加を行っていく、さらに、その経過は議会に報告されるが、議会の承認などの手続きはない、と言う位置付けです。これが今でも、議決事件を拡張していない一般の自治体議会では、標準であるわけです。議決事件の拡大は、行政計画という、これまで議会が排除されていた領域に、むしろ自分たちのイニシアティブによって踏み込んでいくことなのです。 

 議会機能の強化については、今回の自治法改正の主要な項目として、評価と同時に、自治法改正の限界も示している、と言う問題提起もあわせて紹介されていたと思います。つまりより本質的なところでいえば、議会の召集権が拡大されたかに見えるが、基本的に議会の召集権が首長にあるという構造は、今回の改正で変わったわけではありません。そもそも、各々が直接選出された代表であり、合議制の代表機関としての議会が、住民から直接選挙によって選ばれているのに、なぜ議長が議会の召集権を持たないのか、これは本質的な問題だと思いますが、ここには今年の自治法改正は着手できていません。まだまだ総務省の壁は厚く、むしろ、自治体議会の運営実態の中から風を起こしていかないと到達できない問題です。

 このように、大きな課題は残っていますが、複数の委員会への参加が可能になるなど、委員会の機能強化をはかる規定がいくつか整備され、さらに「専門的知見の活用」は「議会に審議会を持てるようになった」ことを意味している、との説明が大森先生からありました。政策形成の機能、企画立案の段階から、議会が活動しようと思えば、当然、専門の知見が必要であり、当事者の知見も「専門的知見」の一つと位置付けてよく、その意味で、公募の住民代表が参加した審議機関を議会が設置をし、そこで条例、計画、基本構想の案を練り上げることも、議会がやる気になれば、この制度のもとで可能である、ということでした。


■基本構想・自治基本条例への議会の関わり方

 企画立案に関しては、「基本構想や自治基本条例は、議会が企画立案から自分たちでやっていくべきである」という強烈な(やや挑発的な)問題提起がありました。以前、話題を集めた三鷹市の基本構想づくり「市民プラン21会議」は、基本構想のたたき台を行政が作るのではなく、住民参加の機関(市民会議)が分科会などで議論を重ねた提案をたたき台としてまとめたものを、市長に提案し、住民が直接参加でたたき台をつくる事例として注目されたわけです。しかし、そもそも、議会の議決事件である基礎自治体の基本構想について、なぜ議会が関わらないのか、それは首長がやることが当然の形であり、そこまで徹底された住民参加がなされたときに、代表機関としての議会はどうしたらいいのか、というようなものの見方が固定観念になってしまっているのではないか、という問題提起でした。

 自治基本条例も、多くの自治体では、首長サイドで進められ、住民参加で内容も議論し、パブリックコメントも行い、固まったものが議案として議会に提出される。その結果、ここまで住民参加で議論されたものに対して、議会として今更何が言えるのか、重大な課題となっているが、これは、議会が自分たちでやっていないからである。また、参考人や公聴会など、既存の制度などもまだまだ活用の余地はあり、企画立案から(議会が)自分たちでやれば、当然今使える制度を使うはず――という主旨の問題提起が、大森先生からありました。


■議員とは何者か 政治活動と公務

 もう一つ重かったのが、議員とは何者か、ということでした。中でも、特に難解な問題設定なのは、政治活動と公務が不可分一体となっていることが、議員・首長という公選で選ばれる役職の本質的な特徴である、という点です。代表機関なので、政治活動は当然やる、住民の意思を反映し、節目である選挙の際には自分に投票してもらう、この票集めのための活動は、蔑視的、非難する文脈で扱われることが多いですが、代表制である以上、票を投じてもらう機能を持つのは当然のこと、投票の仕組みの中に腐敗、利益誘導、口利きなどの問題があるとしても、投票してもらうこと自体は代表制の本質です。その関係性に基づいて民意を反映し、自分の立場や見解を説明・説得して(民意を)形成する特別職公務員としての活動こそ、それ自体が公務として本来位置づけられるべきです。議長が自治体を代表して儀礼的な場に参加するような、中立的な活動だけが公務で、個々の政策的活動は政治活動として切り離すというのは、代表機関ということを考えると、本質的ではないでしょう。しかし、そこに新たなカテゴリーがない、制度の中にこのことが位置付いていない――その他にも、報酬の問題、議員特権の問題などもありますが、「議員とは何者なのか」を考えたとき、このことを一番大きな問題提起として、受け止めました。


■議会改革のための着眼点

 青山さんからの問題提起は、見放され始めている議会の存在意義をどうしたら示せるのか、これがいま問われている議会改革の課題の本質である、という意味で、議会改革のための着眼点がいくつか示されました。

 一つは、栗山町議会基本条例の前文にもある「討論の広場」、または「合議制の機関」(これについては後で“劇場”という表現を用いたいと思います)。「討論の広場」としての議会には、違う意見や立場がいろいろと表明されてきます。複数の意見・見解、利害関係が代表されてくるからこそ、合議制としての議会の存在意義があります。さらに、バラバラな意見をただ多数決で決めるなら、投票した時点で決まる意味で、独任の代表機関だけでよいのかもしれませんが、徹底した討論というプロセスに意義がある、「徹底して、延々と討論してほしい、そこに議会の本質的な役割がある」と青山さんは発言していました。しかし、自治の意味で、最終的にはその討論を踏まえて、ひとつの結論を出す、ここまでを含めての役割が議会なのであり、さらに重要なのは、その討論のプロセスを見せることが、結果的には、民意をつくることになる、ということ。民意はあらかじめ確立していて、それを選挙で忠実に反映した議員構成が成立し、そこが多数決をすればよい、という固定的な考え方なら、議会は要らない。議会の討論が、公開で行なわれることによって、必要に応じて住民も直接意見を述べる機会を持つ、それも含め、最終的には選出された議員が討論の結果議決をする。つまり、プロセスが示され、参加の場が保障される中で、民意が動き、日々うごき形成されていく、そのような双方向的なダイナミズムが、議会の果たすべき役割の重要な要素である――という問題提起でした。


■具体的な二つの提案、「市民との対話」「ローカルパーティー」

 これらの「議会のあり方」の本質的な問題提起を踏まえて、具体的に二つの取り組み例が紹介されました。一つ目は、議会改革への提案として、市民と対話する議会、そしてそれは“面白い”議会――面白くなければ、市民は対話の場に出てこない、対話が意義をもち、何らかの形で活きることがなければ市民は対話の場に出てこない――、さらにそのための独立した専門の補助機関の必要性、情報公開の仕組みと、議員特権の廃止、からなる改革提案でした。もう一つの事例では政党に代わって“ローカルパーティー”の概念が出されたのが特徴でした。行政の分権は進捗しているが、政治の分権は進んでいるのか、地域の課題を地域で解決するのであれば、地域課題に見合ったローカルパーティーが必要であり、そのためには、具体的な条例づくりの提案こそが議員(あるいはローカルパーティー)のマニフェストの本質的な要素になるはずである、という事例紹介と問題提起でした。先ほどの、「政治活動が本質的な特徴」との関連では、政党と言うレベルでの活動の主体をどう位置付けるかが重要なポイントではないでしょうか。


■論点整理 役割と仕組み、制度と運用、政治と政策

 こういった振り返りを踏まえ、(議論を整理するための補助線を意識しながら)論点整理を試みたいと思います。

 まず、「役割の議論」と「仕組みの議論」――例えば機構の話になると組織の持ち方、財源、人材など個別具体的な議論だけが進んでいく傾向があるが、常に何のためにそれが必要なのか、というところに立ち返らないと、議論の軸がずれるおそれがある。役割の議論」と「仕組みの議論」は、繋がっていることは位置付けながら、次元の違いを意識しながら議論する必要があります。
次に「制度の問題」と「運用の問題」――これも、制度を前提に運用があるので、切り離すことはできないが、例えば「公聴会」はこういうもの、というように、どうしても現在の運用を前提として制度を捉えがちであり、制度と運用、どちらのレベルで解決すべきものなのか、再整理が迫られるのではないでしょうか。

 さらに「政治」と「政策」――「政策にかかわらない政治活動」の方が本質であるかのような感覚が多数派ともいえる現状の中で、政治でなければできない政策機能とはなにか、これが議会の政策機能だと思います。一定の方向が定まってきたときに、法律・条例・規則・要項を制定して既存の仕組みと矛盾せずに執行いできるか、この技術的な政策機能はむしろ行政の方が適している。そこに至る手前で、何のためにこれをやるべきなのか、また、あれかこれか、どちらを優先させるべきかをきめるプロセスは、行政がやるべきことではなく、議会にしかできないはずです。自治体の場合、公選の長は、自ら代表機関でもあるので、ある意味、自分の責任で政治をできるために、結果的に、行政機能と政治機能が一体化し、ここに切り込むのは容易なことではありません。また、執行部の中にある行政的なサポート機能は、首長の政治と一体となって動いているため、首長の政策と異なるものを議会が提案しようと思った時に、行政のサポート機能の協力がなかなか得られないのも、こうした理由からだと思います。「政治と行政を切り離せるか」は行政学の永遠の課題ですが、役割としての「政策の補佐機能」と「政治的な選択」の整理の仕方が、議会改革の重要なポイントになると思います。


■議会の政策立案機能の主体性とその課題

 昨日の議論の中では、議会が政策を立案する、と言ったとき、その主体をどこに定めているか、誰がやると位置付けているかという点が、未整理なままで議論が進んでいたのではないでしょうか。そのため、どういう補佐機能が必要かと考えたときに、そのイメージにズレがあったのだと思います。

  選挙で選ばれる単位は個々の議員、議員ひとり一人の主体性はもちろんありますが、合議制の機関においては、必然的に政党や会派という“グループによる政治”が展開され、最終的には議会全体で議決をして物事が決まる仕組みになっています。ところで、議会が主導権をとって自ら条例案をつくり、それを議会改革のために実行していくときに、注目を集めている参照例の多くは、超党派であり、議会としての取り組みとなっています。議会自らの位置づけに関する大きな改革を行うときには、多数決で決着を付けると言うより、むしろ全会一致、超党派で取り組むという、議会の主体性の確立が非常に重要です。議会が一丸となって取り組むときは、おそらく執行部は口出しをしない、また、執行部の補佐機関のサポートも成り立つ環境になると思います。

 しかし、それは議会の持つ政策機能の最も基本的なあり方なのだろうか、と考えたとき、違う見解も出てくるでしょう。様々な利害関係が対立し、討議する、そのプロセスを見せながら、決着していく中で、違う政策を立てて、丁々発止議論する、ここが議会の本質ではないかと思いますが、ここでの首長のサポート機関は十分ではないということです。

 つまり、議会改革や、議会の企画立案機能の中には、二種類の主体性があり、それによって課題も違ってくると言うことです。議会全体の取り組みによって、議会全体の存在意義を主張していく、これはいま、まさに問われており、喫緊の課題として、議会一丸となって取り組むことが先決です(あまりに低い投票率では、合議制機関としての役割も成り立つのか危ぶまれる)。


■選挙プロセスの改革

 また、一番根本に立ち返ると、選挙で選ばれたことが出発点なのだから、誰がどのように選ばれるのかということが、議会の改革においても位置付けられるべきであり、あるいは、選挙のプロセスの改革も提起されなければならない、という意味で、議員選挙におけるマニフェストについての問題提案がありました。この件では様々な議論が予想され、首長のマニフェストをイメージすると、議員個人のマニフェストに対しては疑問視する見方も多いかもしれません。どういう内容のマニフェストをつくるのか、「条例提案」のマニフェストならまさに議会の権能であり、また、議会改革についての提案は、首長には言及できない、それこそ議会の選挙で出されなければならない項目、その意味でも、選ぶプロセスの改革が必要である、というのが討議の中で出された問題でした。


■民意の反映と統合 「議会は劇場だ」

 さて、これまでに自分なりの問題提起もかなり盛り込んできました。最後に学者の言葉でまとめさせてもらうとすれば、代表制には、一括してひとまとめにできない要素が合わせワザで盛り込まれているということです。一つは、民意の反映ですが、他方で、その多様な民意を最終的には統合して一つの結論を出すという、両方の役割を期待されている。特に、独任制であれば、選挙を通じて一気に反映し統合するところまでできるが、合議制の場合には、一度多数を選んだ上で、代表機関の活動を通して、最終的に統合、というこの二面が問われることになります。

 そのプロセスにおいて、「〜〜をやります」という契約関係に縛られたものなのか、その人の判断能力を信じてその結論に任せるという自由委任なのか。どちらか一方でないといけないと言うのではなく、議員にも首長にもこの両方の要素があります。ただ、自由委任に偏ってきたこれまでを考え、バランスのためにマニフェスト運動にも関わっていますが、完全な契約型になればよいとも思っておらず、その意味でマニフェストの是非というポイントがあると思います。

 プロセスを見せるということについて言えば、議会にしかできない本質として「議場は劇場だ」というスローガンを出したいと思います。議会は、決めるための場という以上に、見せるための場と位置づけたほうが、議会の本質に合致するのではないでしょうか。付言すれば、場面転換によっては舞台には住民がのってもよく、最後は選出された人が責任を持って幕を閉じる。

 見せるための演出、One Phrase Politics というと批判が多い。しかし、長い議会の討議の場ではOne Phraseでは済まないが、同時にアピールの必要もあり、その意味で、説得をし、支持してもらうための演出というのは、必要な政治の本質、議会機能の本質であり、本気で取り組むべき問題ではないでしょうか。

 審議の制度については、大森先生から「読会制」についての言及がありました――本会議場で、逐条について修正提案やそれに対する論議も含めて本会議場で行うこと。討議の場での一つの仕組みとして重要な要素。イギリスでは、法案審議における仕組みとしてまだ残っています。


■「議会改革共通マニフェスト」の提案

 最後の提案をして閉じたいと思います。本質について何度が出てきたものをまとめたものですが、議会改革について、例えば、今日ここに参加された方々のほとんどが支持、一致できるような議会改革のメニューというものがあるのではないか。例えば、自由討議をやろう、一般会議が必要ではないか、住民参画を議会でやろう、そのための仕組みをつくろう、こういったことについて、共通の議会改革項目を公約し、この「議会改革共通マニフェスト」を支持し実行することを公約する自治体議員が、統一マークで選挙を戦う、これは、会派によらず多くの候補者が参加できるのではないでしょうか。この改革マークをつけている候補者は、当選後は一致して改革実現の方向で議会活動をする、これは、議会改革を統一して動かす構造をつくるための提案です。昨日の議論の中からは、このようなことも提起できるのではないか、ということです。

 質疑応答の時間がなくなりましたが、午後の分科会に対する投げかけとして、そこで議論が深まることを期待し、これで閉じさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

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議会にしかできないこと――課題の整理と問題提起(2006/07/30当日PP)

廣瀬克哉(法政大学法学部教授)
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【初日の議論を振り返る】

<第一部:小さな自治体の議会制度>

▼議会が代表制の基本
 ○二元代表制を前提としない
 ○民主的自治にとって必ずしも公選の長はなくてもよい

▼議決事件
 ○地方自治法第96条1項
 ○「1項は制限列挙&2項で追加」という解釈は妥当か?

▼栗山町議会基本条例(前文)
 ○議会は、その持てる権能を十分に駆使して、自治体事務の立案、決定、執行、評価における論点、争点を広く町民に明らかにする責務を有している。
 ○自由かっ達な討議をとおして、これら論点、争点を発見、公開することは討論の広場である議会の第一の使命である。

▼栗山町議会基本条例(特徴)
 ○議会報告会
 ○自由討議
 ○一般会議
 ○反問権

▼町民と議会の関係
 ○住民への説明責任と情報公開
 ○民意の反映・民意の形成

<第二部:自治法改正の評価と今後の議会改革>

▼議会排除の修正
 ○機関委任事務の廃止
 ○議決事件の追加:行政計画の議決事件化

▼議会機能の強化
 ○委員会関係の整備・強化
 ○議会に「審議会」設置(“専門的知見の活用”)

▼企画・立案
 ○基本構想や自治基本条例は議会が企画・立案を
 ○参考人、公聴会等既存の制度の活用の余地

▼議員とは何か
 ○政治活動と公務の関係
 ○常勤か非常勤か
 ○報酬の趣旨、費用弁済・年金

▼議会の存在意義
 ○見放され始めていないか
 ○存在意義を示せていない

▼討論の広場
 ○違う意見・立場の反映
 ○徹底して討論
 ○最後に決着をつける

▼民意の形成
 ○討論の過程を見せる
 ○民意は予め定まったものとしてあるのではない
 ○討論の過程が示されるなかで日々動き、形成されていく

▼議会改革事例@
 ○市民と対話する議会
 ○独立した専門の補佐機関
 ○情報公開
 ○議員特権の廃止

▼議会改革の事例A
 ○政党の分権
 ○地域課題主軸の政策・政治
 ○条例づくりにこそ議員のマニフェスト


【討論の論点整理】

▼3本の整理軸―論理的には異なり、実体的に混在
 ○役割としくみ
 ○制度と運用
 ○政治と政策

▼企画・立案の主体
 ○個々の議員
 ○政党・会派
 ○議会

▼2種類の課題
 ○まずは議会全体での取り組みが議会改革実現には不可欠
 ○議会本来のあり方からみれば政党・会派が主体となるべき

▼選挙
 ○誰がどのようにえらばれるかが決定的な要素
 ○議員選挙でのマニフェスト


【問題提起】

▼代表制の矛盾
 ○民意の反映・民意の統合
 ○命令委任・自由委任
 ○マニフェストの是非

▼議会は劇場
 ○議会にしかできないこと
 ○決めるためである以上に見せるための討論

▼演出は本質
 ○論点・争点を分かりやすく、面白くすることこそ、市民へのアピール=政治機能の本質

▼議会の政策能力
 ○企画・立案の論点(既出)
 ○審議制度:読会制の意義

▼議会にしかできないことを行なう=議会の存在意義

▼統一地方選挙に向けて
 ○議会改革共通マニフェスト
 (自由討議、一般会議、住民参画等の共通の議会改革項目を公約、共通マークの提示)

▼分科会議論へ
 (市民参加、都市計画、予算、コミュニティ活動)

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(了)

※まとめ:石川紀(東京市民調査会)
※現時点での文責:市民と議員の条例づくり交流会議(事務局)


 

ご連絡先●市民と議員の条例づくり交流会議実行委員会事務局
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