市民と議員の条例づくり交流会議

◆全体会:第一部 「小さな自治体の議会制度―その改革方向性を探る」

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質疑・会場ディスカッション
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■辻山(コーディネーター)
 今村先生からは、現行の憲法のもとで議会を軸とした自治を構想していくにあたっての、二元代表制の見直しという、大変重要な指摘がありました。憲法93条1項が、議事機関としての議会の設置を定めているのに対し、執行機関の設置についての記述が無いことを思い出すにつけ、この問題は相当に根が深く、議論が必要だと感じています。
 さらに、小さな自治体ほど改革が進めやすいとの指摘もありました。これに関連して、14自治体が合併してできた新・上越市では、旧13町村に地域協議会を設置し、総勢190名からなる委員が一部選挙によって選ばれ(定数を超えたところのみ)、無報酬で、すでに20回からの協議をしていると言います。上越市にも当然議会があるわけですが、それにつけても議会とは何か、いま一度考えさせられる事例です。
 私どもも今から7〜8年前、地方自治基本法の原案を作成しました。しかし、都道府県と市町村をそれぞれ書き込んだために、道州制が受け入れられない体制になっているとか、首長・議会の二元代表制を原理原則としているのを、より弾力的な規定にしていかねばならないか等、再検討事項は多々あります。
 長の反問権については私も大変興味をもちましたが、反問権を有する町長等が、議長から出席要請を受けた場合に限って認められるだという規定が興味深い。思えば法律は議会からの出席要求があって長等の執行機関が議会に出てくることにしている。このことを、改めて確認しているわけです。何の要請をせずとも執行部が先に議場に来ているというのが一般的な運用である中、議会に執行機関が出席していることの意味をいま一度考えさせられる内容になっていると思います。
 論点は多々ありますが、深く煮詰めるのは午後に回し、午前で退席される栗山町の橋場議長さんへの質問を優先して、心残りのないようにしたいと思います。

会場参加者
 96条2項の議決事項の拡大について、他の自治体ではどのような状況になってるのでしょうか。

橋場
 詳しい数字はわからないが、ある程度の町で取り組んでいることは事実です。

今村
 市議会議長会あるいは町村議会議長会の事務局に問い合わせれば、数字も、また代表的な議決事項も出てくると思います。

会場参加者
 町村議会議長会の行った昨年4月のアンケート調査の時点で、約200団体(町村のみ)が議決事項を追加していました。また、当初は基本計画、基本構想という表現を使うところが多かったのですが、執行部も知恵を働かせ、「これは基本構想に基づくものではありません」などと逃げるケースがあったため、具体的に件名を「マスタープラン」「エンゼルプラン」などとズバリと書き込んだり、計画「等」と縛ることによって、逃げられない工夫をしているところもあります。
 県でも三重県等の例がありますし、町村ほど多くはないが市もそうした方向に向かっていると思われます。

会場参加者
 議員の会派構成などはどうなっているのか。私たちの議会では、反目する会派が、中身云々ではない部分で対立することが多いのですが、栗山町ではそうしたことは無いのでしょうか。

橋場
 18名の議員中、共産党が2人、公明党が1人で、会派制はありません。たしかに足を引っ張り合うことが、議会の大抵の姿であったりするわけですが、栗山町は来年4月の選挙で、18名からさらに5名減らして13名になるため、ますます会派は必要なくなるのではないかと思います。だいたいうちの議員の大半が会派は必要ないと考えています。
 今回のような条例を一度に制定しようと思えばいろんなことが起きたかも知れませんが、今回は8割方がこれまでの積み重ねを書き加えたものであったため、スムーズにいったのかと思います。また、住民との対話がベースとなっているため、議員同士の足の引っ張りあいといったくだらないことにはなりませんでした。

会場参加者
 議会報告会の具体的なイメージがつかない。議員個人あるいは会派で報告会をやることはあっても、議会全体でやる場合、たとえ同じ事実であっても議員それぞれの考え方が異なれば報告の仕方も変わってくるのではないでしょうか。また、住民への周知や回数についても教えていただきたい。

橋場
 1年の議会活動を報告するため、3月議会終了後、年1回の開催としています。議員を6人ずつ3班に分け、地域の12会場を抽選で各班に割り当てています。班の構成は議長に一任されており、私の場合は年齢順に割り振っています。また、会場は町内会や自治会等となりますが、その貸し出しや参加要請等については、町民の皆さんにご協力をお願いしています。
 あくまでも議会の報告ということですので、報告の際には決定事項に従ってもらいます。私はこの議案には反対だった、などといってもらっては困るということです。勤め人の参加に配慮して19〜21時の2時間行うのですが、うち1時間は報告、1時間はフリートークです。進行や記録等の分担は議員同士、手分けして公平に行い、特定の人が話し続けないように注意しています。
 会派や党派を持つ人の報告会は、独演会です。自分に都合のいいことばかりを報告する。そして集まる後援者からも、厳しい意見は出されない。一方、議会報告会ではかなり厳しい意見が出されます。しかしそうした厳しい意見をまともに受けられなければだめなのです。
 行政への要望、批判など、その場で答えられなかったことはきちっと記録し、行政側と協議した上で次年度の資料に回答を書き込み、住民に配るようにしています。聴きっぱなしにはしません。

会場参加者
 平成17年3月の第1回議会報告会への参加者が370名、一方、今年3月の2回目は237名と減少しているのはなぜでしょうか。また、一般質問をポスターにして張り出すとのことですが、一定例会でどのくらいの方が一般質問を行うのですか。

橋場
 今年4月に町長選挙があった関係で、選挙に影響してはまずいだろうと、議会報告会を選挙後に延ばしました。新町長への意見がまだ少なかったことも、人数が減った理由ではないでしょうか。また、昨年の報告会では町側への批判・注文が多かったが、今年は人数こそ少なかったものの、高度な意見が集まりました。参加人数については、必ずしもこだわる必要はないように思っています。
 一定例会あたりの一般質問は、平均すると6人程度です。

会場参加者
 女性議員の数は何人でしょうか。また、議会報告会開催要項にある「議会だより」はどのようにつくっているのでしょうか。

橋場
 女性議員は共産党の1人のみ。前回は2人だった。女性の進出が少ない点は危惧しています。議会だよりは、議員6名からなる特別委員会をつくって対応しています。議会事務局が1名ついていますが、一般質問の記事はすべて議員が書くことにするなど、5割方は議員が担当しています。年4回の発行です。

会場参加者
 栗山町はバークレイの日本版という気がして嬉しく思います。一般的に、非公式な全員協議会の場で重要な問題が秘密裏に決められてしまうという印象があるため、一市民として全員協議会を公開にしていきたいと考えています。栗山町ではどのようになっているのでしょうか。

橋場
 栗山町では、全員協議会を公開してはいません。しかし、例えば条例改正などの重要問題について町側から説明を受けたとしても、その場であまり突っ込んだ質問はしないようにしています。大事なのは本会議であり、非公式な場では聴きおく程度に止めましょうということです。あえて争点になるところについては、本会議で質問を繰り返している人もいます。そうしたかたちでいいと私自身も思っています。

会場参加者
 議員定数の削減について、反対はなされなかったのでしょうか。私自身、議員定数を削減することで議員の質を高めることになるのは歓迎ですが、依然としてそうした方向性に反対意見も根強いと思われますが。

橋場
 議会改革というとすなわち定数削減、報酬の減額という人がいますが、私はこれはまったく違うと思っています。町ごとの考えや状況の違いがあるため、議員定数は少なければだめだ、多ければいいといった単純な問題ではないはずです。
 たしかに議会報告会でも、定数を減らすことで住民の声が届かなくなるのではないかとの不安が出されはしました。しかし、今回の5名削減は全会一致で可決され、住民の大半もよくやったと評価してくれた。これからはさらに直接対話の機会を増やし、住民の声を受け止めるスタイルをつくらなければならないと考えています。

会場参加者
 反問権についてもう少し具体的なイメージを持って帰りたいと思います。本会議で通告して答弁してもらう際に、町側から、質問の意図についての反問もあるのでしょうか。また、委員会でも同様のやり取りがあるのかどうか。町側からの反問に、対応できない議員も出てくるのではないでしょうか。本会議、委員会での具体的な様子を教えてもらいたいと思います。

橋場
 本条例を5月の臨時会で制定し、6月の定例会では早速、町長と教育長が反問権を行使しました。実際、質問整理に使う場面もあったのですが、それは実際の反問権には当たらないように思います。
 本来、反問権は答弁のテクニックでどうにでもなるもので、首長によっては、そうしたものがなくとも反問しているケースもあるでしょう。しかし、私どもはあえて反問権を堂々と与えることにしました。それによって議員もきちんと問題を整理した上で、住民に納得のいくような質問をしていくことになるからです。反問されてうろたえる人も出てくるかも知れませんが、次からはきちんと調査して質問に当たることになるでしょう。反問権によって、議員も質を磨いていただくということです。なんでもかんでも質問して、相手もなんだか分からないまま答えるというのでは、住民も承知しません。

会場参加者
 自由討論に関心をもっているのですが、議会の運営上、日程をどう確保しているのでしょうか。多くの議案がある中で、自由討論をやっていたら会期が足りなくなるのではないでしょうか。また、米子市では議員1人30分の持ち時間で一問一答を行っていますが、その中で反問権を行使されると、さらに時間が減ってしまうのではないかと思われるのですが。

橋場
 反問権が反問のための反問になってはいけませんし、それをきちっと整理するのが議長の仕事だと思っています。
 委員会では最後のまとめの段階で執行部がすべて退席し、自由討議を行うことになります。まだ本会議での経験がないのですが、自由討議は動議のかたちで受け、そして最後は民主主義の原則で採決することになるだろうと思います。個人的には3回くらいは自由討議をしても良いのでは、と考えています。そうすれば、単に賛成・反対の主張だけに終わる討論は無用ということになります。主張によって反対意見の人が最終的に賛成にまわるということはあり得ない。そうした無駄なことはせず、自由討論を充実させていければと考えています。

会場参加者
 条例6・7・8条には、町長や行政の行動にかなり踏み込んだ表現がありますが、制定に向けて町側との打合せの経緯・やり取りについてお聞かせ願いたいと思います。

橋場
 4月の町長選では、私が支持した町長が当選したため、早速打ち合わせをして、気持ちよく条例を受け入れていただきました。議会と執行部が対立構造にあるとはいえ、私たちもむやみに争う気持ちはありませんし、遠からず近からずの距離を保ち議会を運営していきたいと思っています。今回の制定にあたっては、ぎすぎすした話しはありませんでした。

会場参加者
 栗山町の条例が、議会の町民に対する責務を強調されたことはすばらしかったと思います。今後の地方議会のあり方を考えたとき、議会が主権者市民の声をどう反映させるのかといった観点が大切ではありますが、議会に権力を与えているのはまさに主権者市民であり、その議会が定めた条例に市民は服従せねばならない、そしてその裏返しとして議会が市民に責任を負うということをどう考えるべきか、ということに関心があります。
 日本国憲法が始まった当初、国の統治権に対して国民には服従義務があり、そのローカルバージョンとしての自治体の条例、知事の命令にも従わねばならなかった。そうした中央集権的な考えを排し、分権的にものごとを考えようとした場合、なぜ住民が条例に従わねばならないのか、市議会に権力を与えたのは誰なのかということを念頭に置いた上で、議会基本条例を考えるべきではないでしょうか。
 憲法94条は条例制定権を定めていますが、その裏返しとしての市民の服従義務がどこから出てくるのかについては説明されていませんでした。おまけに、条例を執行するのは自治体だが、それを取り締まるのは国の警察、国の裁判所というこの逆転した構造を、どう分権的に書き直していくべきか。おそらく地方自治の地方自治法をつくる以上に、地方自治の憲法理論をつくる必要があるのではないかと思うのです。地域が、国の警察・裁判所を「使って」自治を行うのだということをはっきりさせることくらいは、議会基本条例にしろ自治基本条例にしろ可能であろうし、市民は自らがつくり、自らが権力を与えた議会が決めることに対して、国の統治権を介在させずストレートに服従義務を持つのだということを説明できるのではないかと思います。

今村
 「権力」という言葉使いについては、少々ひっかかります。私の辞書における「権力」の定義は、相手が嫌がることを強制するという意味で使われているため、「権力の源泉が住民にある」という言い方には素直にうなずけても、「権力を預けた」と言えるかどうかについては分かりません。住民とはオーサー(市民自治の張本人)であり、これが権威を与えるから、議会はオーソライズされ、一定のオーソリティが生まれる。そしてそのオーソライズされたオーソリティを発揮する手段として、条例などといったさまざまな形式があるのだろうと理解しています。
 私自身、たしかに地方自治の憲法理論を構想しなければならない必要性は感じています。われわれは二元代表制を前提にしている。栗山町の条例もそれを易しく言い直した上に組み立てられているわけですが、その実態と言えば、まったく二元制などと呼べるものにはなっていない。そして、その源を辿るならば、やはり日本国憲法の定め方に行き着くのだと認識しています。したがって、真の意味での市民自治の憲法理論をやるならば、日本国憲法自体を組み替えるだけの決心をしなければならない日がやがて来るだろう、と思っています。

橋場
 今回の条例制定にあたっては、私たちも町民の議員を選ぶ責務について、盛り込むことを考えてはいました。しかし、議会報告会で説明し意見はもらったものの、そこまではあえて踏み込まず、あくまで私たち議会から、町民に向かっていく姿勢を示す条例としました。
 議員の一部からは、町民からの白紙委任をもらっているではないかとの意見もあったのですが、やはり常日頃から住民との対話の中で説明責任を果たしていなければ、白紙委任をもらっているなどとは言えません。そういう意味でも今回の議会基本条例に、町民の責務は必要ないと思っています。

辻山
 質疑によって、随分と条例の中身が明瞭になりました。いくつか論点も残っていますが、引き続き午後の議論へと続けていきたいと思います。

※当日速記:増原直樹(環境自治体会議環境政策研究所)
※まとめ/会場参加者の発言などの文責:市民と議員の条例づくり交流会議実行委員会(事務局)

(全体会第一部 了/※以上、敬称略)

ご連絡先●市民と議員の条例づくり交流会議実行委員会事務局
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