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市民立法機構リターナブル容器普及プロジェクト
以下の内容は、市民立法機構発行のブックレット『リサイクルからリユースへ』の内容をHTML化したものです。
ごみの埋立地をめぐっての争い、焼却場からのダイオキシンの問題など、ごみをめぐ る問題は年々深刻化していますが、相変わらずごみの量は増え続けています。
この間、ごみを減らす決め手として取り組まれてきたのが「リサイクル」でした。使い 捨てではなく、回収してもう一度資源として利用することで、資源をムダにせず、ごみも 減らそうというものです。でも、資源をムダにせず、ごみを減らすのに、一番効果的なの はほんとうに「リサイクル」なのでしょうか?
日本ではリサイクル・ショップといった用法のように「再使用」する場合も「リサイクル」と呼んでいますが、海外では「リサイクル」は原料などに戻した上で再生利用するこ とを言い、そのまま再使用する場合は「リユース」と言って区別をするのが一般的です。
例えばガラスびんに入った飲み物を考えてみると、一度しか使っていないびんをわざ わざ溶かしてもう一度新しいびんにリサイクルするより、洗って再び使うリユースの方 が簡単だしムダがないんじゃないかという素朴な疑問が浮かんできませんか?
実際、昔は牛乳びん、ビールびん、一升びん、ジュースやコーラもびんを何度も使い回 ししていたものです。こうしたびんのことを「リターナブルびん」と呼んだりもしますが、 ここでは「リユースびん」と呼ぶことにします。
一方、買ったお店で引き取ってもらえず、1回使っただけで(資源)ごみとして出さなけ ればならないようなびんや缶、PETボトル、紙パックなどは「ワンウェイ容器」と呼ばれ ています。
何度も使えるものを、1度きりで捨てればごみが増えるに決まっていますから、もはや こんなことは許されません。では、ごみにしないようにリサイクルするのと、洗ってリ ユースするのとではどちらが環境によいのでしょうか?
図1は、ある生協が独自のリユースびんを使った場合と、1度しか使わずにリサイクル した場合のCO2(二酸化炭素)の排出量を比較したグラフです。リサイクルした場合の CO2排出量は、リユースの約3倍にもなってしまいます。CO 2は地球温暖化を招く物質として、削減していくことが求められているのですから、この場合、リユースびんを使った 方が環境によいということが言えます。
また税金の使い道、という点でもリユースの方がよいことがはっきりしています。リ ユースびんの場合、買ったお店で引き取ってもらえます。お店からメーカーへと引き取 られて中身が詰められてまた売られます。このサイクルには自治体などが関わる余地は ありませんから、税金が使われることもありません。
ところが「ワンウェイ容器」の場合は、ごみとして捨てても、資源ごみとして回収して も、それを担うのは主に自治体です。そこではみなさんが納めた税金が使われることに なります。もし環境のことを考えてリユースびんしか使わないと決めている人がいたと しても、そうでない人と同じように税金から処理費用を支払わされることになるんです から、これでは不公平になってしまいますね。
さらに、リユースびんの場合は、次に使うときも必ずびんですが、リサイクルの場合は 必ずしもそうではないのです。紙パックやPETボトルなどは二度と同じ容器にはなりま せんし、缶なども必ずしも缶として再生されるわけではないのです。ということは、同じ 容器を得るためには新しい原材料をつぎ込み続けなければなりません。ワンウェイびん
は色別に回収すれば再びびんになりますが、だったら何度も使った上でさらに同じびん にも再生できるリユースびんの方がはるかに優れていると思いませんか?
1991年に「再生資源の利用の促進に関する法律(リサイクル法)」が制定され、再生 原料使用割合は、ガラスびん49%(88年)→67%(97年)、スチール缶40%(88年) →80%(97年)、アルミ缶42%(88年)→73%(97年)へと高まりました。そして、 1997年に「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装 リサイクル法)」が制定され、PETボトルの回収率も528トン=0.4%(93年)→ 44,600トン=18.0%(98年)へと大きく伸びました。
しかし、このPETボトルは、回収量をはるかに上回って生産量が伸びてしまいまし た。そのため、ごみとなるPETボトルが12万トン(93年)から20万トン(98年)へと 急増したのです。特に、96年にメーカーが500ミリリットルの小型PETボトルの販 売を解禁してからは、毎年2割ずつごみとなるPETボトルの量が増えてしまい、歩道 や空き地に散乱するごみの代表格の座を空き缶から奪いつつあります。
これまでの空き缶やPETボトルなど使い捨て容器の大躍進の影で、リ ユースびんは激減しています。ほんの10年前までは、そうしたリユースの王様 だったビールびんでさえ、1995年には容器別シェアを空き缶に譲り渡してしま いました。
またコーラなどの炭酸飲料では、89年に17%だった容器別シェア が7年後の96年には4%にまで転落しています。つまり、PETボ トル、缶、ワンウェイびんが伸び、リユースびんの“一人 負け”だったわけです。
なぜこれほどまでにリユースびんが減ってしまったのでしょうか。理由はさまざまで すが、容器包装リサイクル法の仕組みもリユースびんに不利にはたらきました。
下の図は500ミリリットルの酢のびんを事例にした商品の費用の模式図ですが、容器 包装リサイクル法では、ワンウェイ容器は事業者が若干の「再商品化負担金」(約0.15円 で下の図には示せない程度)を支払うものの、回収や分別の費用は主に自治体の税金で 賄います。でもリユースびんは、ほとんどの費用を品物の 値段に反映させなければならないので、ワンウェイ容器の方 が値段を安く設定できるのです。ワンウェイ容器は制度に ただ乗りして値段を下げられるのです。
このままでは、大量生産、大量消費とともに大量リサイクル は定着するかもしれませんが、より資源の有効利用や環境負荷を 減らせる可能性があるリユースの仕組みが消えてしまうかも しれません。
循環型社会をつくっていくためにも、今の制度に加えて、リ ユースを普及させる制度が必要な時期となっているのではな いでしょうか。
ごみ問題の先進国として、何かと引き合いに出されるドイツ。このドイツでは「循環経 済及び廃棄物法」が制定されており、72%以上のリユース容器を使うことが義務付けら れています。つまり、ドイツのリユース容器の容器別シェアは72%以上ということにな ります。
リユース容器は回収のための預り金(日本のビールびんと同じような仕組みです)、そ の他の容器・包装材は回収などの費用を商品の価格に上乗せする方式です。ここで「リ ユースびん」ではなく、リユース容器としているのは、リユースできるPETボトルが使用 されているからです。
もし、リユース容器のシェアが72%を下回るとどうなるか。その場合、リユース容器 のシェアが72%を下回った容器に預り金制度が導入され、ワンウェイ容器は認められ なくなってしまうのです。
さらに驚くことに、ドイツでは、2000年までにリユース容器のシェアを94%にする ことをめざしているとのこと。日本がいかに遅れているかがはっきりしています。
こちらも環境先進国と言われる北欧のデンマークでは、飲料容器の97%がリユース 容器という驚異的な数字を誇ります。なぜこんなに高いのかと言うと、国内に缶を製造 する会社が存在していないこともあって、缶の製造を禁止する法律があるからです。
しかしこれだけでは、EUという一つの市場をもつヨーロッパでは効果薄。そこで、と られた政策が、製造時課徴金制度です。これは容器製造時に、容量や素材ごとに一定の課 徴金(最高で30円強=2.24デンマーククローネ)を課すことで、何度も使えるリユース 容器は安く、ワンウェイ容器は高くと、無理なくリユース容器に誘導しようという政策 です。
もともとワンウェイ容器が少ないデンマークがなぜこのような制度を創ったのかと いえば、お隣のドイツから大量に輸入される缶ビールを対象にすることが目的でした。 この制度をめぐって、ドイツとデンマークはEU裁判所で争うまでとなりましたが、結局 デンマークが勝訴し、この制度が定着しました。
大量のエネルギーを使用するアメリカ。さすがにリユース容器のシェアは、ビールび んで10%(80年代)、ソフトドリンクびんで30%(80年代)程度と日本との差は少ない ようです。しかし、州ごとに特色をもつアメリカ。州によっては、飲料容器に関する強制 預り金制度を取り入れているところもあり、オレゴン州にいたっては、その導入後、リ ユース容器が70年代前半の36%から、98%を占めるまでになっています。
もちろん面積の違いや、人口の違い、産業構造の違いなど、それぞれ国による差があり ますから、一概には日本とは比較できません。しかし例えばデンマークなどはエネルギー 資源を産出していないという重要な点では共通していていますが、日本とは全く異なる 道を歩んできたという評価がよくされます。何がしかのヒントは含まれているのではな いでしょうか。
以上のようなことから、私たちは日本でも容器に負担金をかけていくような制度が必 要だと考えました。私たちが考える「小売容器負担金制度」とは次のようなものです。
アルコールや清涼飲料、調味料などの容器として、新しく製造された容器を、中身メー カーが容器メーカーから購入した際に、負担金を課します。1回以上消費者の手に渡り、 使用後回収されたリユース容器を使用する場合には負担はありません。負担金を支払う 事業者は、中身メーカー(ボトラー)です。中身メーカーが負担した金額は、その分、商品 価格に跳ね返ります。
一度しか使用しないワンウェイ容器では、負担金の額がそのまま小売価格に反映しま す。しかし、リユース容器では、最初に容器を購入した時だけ負担し、繰り返して使う場 合には負担がありませんから、使用した回数に応じ、価格に上乗せする額は安くなりま す。
こうすることで、リユース容器がワンウェイ容器よりも価格的に不利な場合でも、そ の価格差をなくすように負担金をかければ同じ土俵で勝負でき、消費者がリユース容器 を選ぶことができるようになります。
もし例えば図5のように、負担金をさらに上げれば、ワンウェイ容器の値段が高くな り、ワンウエイ容器の飲料等を買う人は減ります。中身メーカーもリユース容器を採用 することで経済的なメリットが生まれますので、リユース容器が普及します。その結果、 ごみ量が減り、資源の有効利用をすることができます。
負担金の額は、リユースびんがワンウェイ容器に比べて不利にならない、またはリユー スびんを消費者や販売者が選ぶことでメリットが生まれる程度の金額を設定します。
例えば、牛乳紙パックと牛乳のリユースびんとを比較しますと、1リットル紙パックの 容器代金は11円ほどですが、リユースびんは60円程度と割高です。でも仮に20回使っ たとすると60÷20=3ですから、1回当たりの容器代金は3円で紙パックより安くな ります。
しかしリユースびんには、容器代以外の費用が加わります。びんキャップの代金や、牛 乳をびんに詰める工場での充填スピードが紙パックの充填スピードに比べて遅いこと や、びん洗浄の設備が必要なことなどから、紙パックの充填ラインに比べ設備費用が多 くかかります。さらに、びんを回収する輸送コストも必要ですから、場合によってはワン ウェイ容器よりもコストがかかってしまいます。
しかし、新しい容器にだけ課せられる負担金なら、このような費用の差も、繰り返し 使っていく中で解消できるような金額を求めることができます(図6)。この事例の1 リットル牛乳の場合、リユースびんが紙パックに対して不利にならないためには、紙パッ クに15円以上の負担金を設定すれば良いことがわかりました。
ワンウェイ容器は1度しか使わないので、費用はいつも新しい容器の値段ですから、
上のグラフでは横一直線のAの点線で表されます。これに対して、リユースびんは繰 り返し使えば1回当たりの費用が下がってくるので、図中のBの線のように右下がり になります。
本文の牛乳の事例のようにリユースびんを何度使っても、ワンウェイ容器が有利と なる場合は、リユースびんにとって最も不利な条件ですが、新しいびんにだけ負担金 をかければ、それぞれの費用の線はA’とB’に移動し、使用回数で費用を下げられる
リユースびんだけを有利にすることができます。
対象とする容器は、リユースびんで流通させることが可能な商品を対象とします。ア ルコール類や牛乳、清涼飲料、醤油やみりん、食酢など調味料が対象となります。
デポジット制度は、預り金を容器に上乗せし、容器を返すときに預り金 を返してもらうという制度で、日本ではビールびんに5円の預り金が上乗 せされています。この制度は、消費者から容器を回収する方法としては優 れているのですが、これだけでは必ずしも容器のリユースにつながるわけではありませ ん。回収したものを壊してリサイクルするためのデポジット制度というのも考えられる からです。
もちろん、リユースするには回収する必要があり、デポジット制度はそのためには有 効ですが、デポジット制度だけでは、私たちの求めるリサイクルよりもリユースを優先 させるという状況を作り出すことはできないと考えます。
ごみの排出量に応じて市民から直接処理費用を取れば、市民がごみとな る商品を選択しなくなり、ごみの減量が進むという考え方で、すでに一部 の自治体でも行われています。
しかし、例えば市民がごみ処理の費用を減らそうと、ごみにならない商品を選ぼうと しても、そのような商品が売られていなければ、なかなかごみの減量化にはつながり ません。北海道の伊達市では一般ごみの有料化のあと3割程度の減量化を達成しました が、その後再び増加に転じています。
容器の製造から廃棄の流れの中で、ごみの有料化は川下を絞るだけです。しかし川上 で絞らなければ抜本的なごみの減量にはつながらないのではないかと考えます。小売容 器負担金制度は、川上を絞る制度として考えられています。
小売容器負担金は、国が徴収して、合理的な基準に基づいて自治体に配 分して回収・分別費用などに充当してもらってはどうかと考えています。 しかし、この負担金は、もしリターナブル容器が普及すれば次第に少なくなっていく 性質のものなので、それにつれて自治体への配分も減っていきます。しかし同時にリサ イクルしなければいけない容器も少なくなるはずですから、自治体が負担する回収・分 別費用も少なくなっていると考えられます。
Q4:事業者がリサイクルするために自主回収した容器も対象になるのですか?
A4
小売容器負担金制度はリサイクルの促進を目的とした制度ではありま せん。リユースをリサイクルより優先させて促進しようという制度なので、 製造から廃棄の流れの川上である製造時での抑制を目的としています。ですから、容器 包装リサイクル法のように、自主回収した分量を減額するようなことは考えていません。
小塚尚男(コミュニティクラブ生協)/須田春海(市民運動全国センター)/後藤敏彦(環境監査研究会)/中村秀次(生活クラブ連合会)/橋本治樹(市民がつくる政策調査会)/山田孝志(生活クラブ生協・神奈川)/廣瀬稔也(市民立法機構事務局)
発行日:1999年11月30日
東京都千代田区麹町2-7-3 西川ビル2F 市民運動全国センター内
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